微分と缶詰の共通点

ニュートン微分法を考え出した当時、「微分」とはなんなのか、というのは明らかではなかった。

(前略)
これを手初めに、ニュートンの方程式は、力と運動に関する問題に次々と応用された。そして、「ニュートン力学」または「古典力学」という広大なジャンルが生まれたのだった。しかしその一方で、微積分の土台のところにはまだ問題が残されていた。無限小の意味がよくわかっていなかったのだ。ライプニッツニュートンは、理論的な結果と実験との驚くべき一致をかかげて批判者たちに反論しがちだったし、厳密性しか頭にないような人たちを攻撃もした(優れた数学者にしては奇妙な態度である)。微積分を厳密に理解しようという試みもなされたが、十九世紀も半ばを過ぎるまで、すべての試みは失敗に帰した。そうした試みのなかには、十八世紀最大の数学者ともいうべき二人、オイラーラグランジュによるものもあった。
(後略)

微分についての方程式には「無限小」という考え方が出てくる。この方程式を使えばさまざまな運動について実験的に正しい計算を行うことができるのだが、その「無限小」というのがいったいなんなのかは長い間「棚上げ」にされていた。

これと似た話で、缶詰が発明された当時、なぜ缶詰で食品が保存できるのかは明らかではなかった、という話がある。
発明当時は微生物の存在が知られていなかったため、「加熱した食品を密閉した缶の中に入れると、食品を腐らせずに保存できる」ことは分かっていたが、それがなぜなのかはわかっていなかったのだそうだ。
たぶん世の中には、そういう、「なぜうまくいっているのかの『理由』はよくわからないが、こういう『やり方』を使うとうまくいくことが実験的に明らかになっている」ことがたくさんあるのだと思う。